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概要:3月10日、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを支えてきたシリコンバレーバンクが破綻しました。スタートアップやVCにとって欠かせない存在だった同行はなぜ破綻したのか、その背景を探ります。
シリコンバレーバンク破綻の報を受け、預金の引き出しに駆け込むスタートアップのファウンダーたち。
Justin Sullivan/Getty Images
ある大手金融機関のニューヨークの銀行員のもとに、スタートアップのファウンダーたちから口座開設依頼の電話がかかってくるようになったのは2022年12月のことだ。
聞けばファウンダーたちはシリコンバレーバンク(Silicon Valley Bank、以下SVB)と取引しているが、VC(ベンチャーキャピタル)からSVBが「流動性の問題」を抱えていると聞かされたため取引銀行をすぐに変更したいという。
水面下ではこのように警戒感が高まっていたが、2023年3月10日に連邦規制当局によってSVBが突如閉鎖されたことにより、この問題がついに明るみに出た。
シリコンバレーで愛されてきたSVBの破綻は、テック業界全体に衝撃を与えた。信頼を勝ち得ていた同行は、なぜこれほど急激に経営状態を悪化させてしまったのか。責任の所在はどこにあるのか。悲しみ、戸惑い、怒りが入り交じった感情が、いまシリコンバレーを覆っている。
今回の件は、大手のVCや競合他社がTwitter上で不必要なパニックとヒステリーを招いたせいだと非難する声も上がっている。例えば、アップフロント・ベンチャーズ(Upfront Ventures)のマネージングパートナーであるマーク・サスター(Mark Suster)は次のように話す。
「あなたが映画館にいるとしよう。あなたは火がついてもいないのに火事だと大声で叫び、他の人たちが床に伏せている間に先に脱出できたと祝杯をあげたとする。それでも今夜、枕を高くして寝られますか?」
同じくVCであるプライマリー(Primary)のブラッド・シュルガ(Brad Svrluga)は、リンクトイン(LinkedIn)に次のように書いている。
「過去48時間にわたって優れたリーダーシップを発揮し、SVBの取り付け騒ぎを起こし、結果としてわれわれのエコシステムになくてはならない金融機関を転覆させたベンチャー界隈の仲間たちに正式にお礼を述べたいところだ。
この惨事は、われわれが共有するエコシステムを弱体化させたベンチャー投資家が、SNS上でヒステリックに主張したことで起きた。リーダーシップに関する驚くべき失敗だ」
一方、SVBは預金者の資金で無謀な賭けをし、そもそもリスクの高いスタートアップに過度に依存するようなビジネスを事業の土台に据えたのだから、同行の幹部は自分を責めるしかないと言う人もいる。
マーチ・キャピタル(March Capital)の共同創業者でマネージングパートナーのジェイミー・モンゴメリー(Jamie Montgomery)は言う。
「そもそもこのような事態に陥ってはいけなかったんです。SVBはここ数年は目立つ存在であり、自分たちが思っている以上のリスクをとろうとしていた。経営陣に責任があります」
スタートアップが最も頼りにする銀行
この40年間、SVBはスタートアップエコシステムの支柱ともいえる存在だった。VCが資金を調達する際の頼りになる金融機関として機能し、ファウンダーや投資家たちと強い絆を築いてきた。2001年にドットコムバブルがはじけたときも2008年のリーマンショックの際も、重要な安定要素であり続けた。
SVBは何年もの間、スタートアップエコシステムにおいてファウンダーや投資家との間に良好な関係を築くべく奔走してきた。豪華なイベントを後援したり、VCをスキー用のロッジに招待したり、もっと重要なところでは、体質の古い銀行に見放された実績のない企業に対して思い切った賭けに出たりしてきた。
シリコンバレーの関係者の多くは、SVBの代わりはいないと言う。銀行との取引実績がほとんどなく、他の金融機関からは門前払いをされそうなファウンダーに対して、ベンチャーデットの提供から個人住宅ローンまで、あらゆることを行っていたのだ。
「SVBは40年間VCと仕事をしており、誰を信用し、誰を信用すべきでないかを知っていたんです」(サスター)
このような事情から、SVBの預金者たちはそれほど数は多くないにしても、同行に対して非常に献身的だった。約3万7000人の顧客の資産は約1570億ドル(1ドル=135円換算で約21兆円、同行の資産の74%)にのぼり、口座規模は平均400万ドル(約5億4000万円)を超える。
こうした事実は、好調だった時期は「シリコンバレーで信頼の置ける銀行」という同行の評判を高めるのに役立った。しかしこのたびの危機ではその評判が裏目に出た。SVBが管理下に入った米連邦預金保険公社(FDIC)は、口座あたり25万ドル(約3400万円)しか保護していない。つまり、2022年末の時点で同行に1730億ドル(約23兆3500億円)あった顧客の預金の87%が保険の対象外だったということになる。
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コーポレートガバナンスに欠陥も
2021年時点でのSVBは、他の銀行が羨むような問題を抱えていた。大規模な資金調達ラウンドを行い、現金を保管するための安全な場所を必要としていたスタートアップからの預金がなだれ込んだのだ。
当時はVCが競うようにスタートアップに投資しており、スタートアップは目まぐるしい勢いでディールを成立させては資金を銀行に預け入れたため、SVBの資産は大幅に増加した。
問題は、SVBが「純利益目標」と呼ぶ預金の爆発的な増加ペースと足並みをそろえるかたちで、貸し出しを行えなかったことだ。
そこで他の収益源を探すことにした同行の経営陣は、最終的に不動産担保証券に大きく賭けることにより、10年利率1.56%で800億ドル(約10兆8000億円)以上を確保した。
SVBの元幹部は、この決定は「ばかげた」ものだったと振り返る。不動産担保証券に賭けるのではなく、もっと短期で利回りの低い証券で良しとすべきだった、と。
「SVBはウォール街の金融機関に出ていくように言うべきだったし、バランスシート上の投資を、スタートアップの世界で急速に変化する同行の経営環境に沿うかたちで保つべきだったんです」(SVBの元幹部)
さらに悪いことに、SVBの取締役会はベンチャー投資家、コンサルタント、スタートアップのファウンダーによって牛耳られている。
「取締役会に銀行出身者はいませんでした。シリコンバレーを象徴するこの会社を経営する責任を与えられた者には、謙虚さが必要です」(前出のモンゴメリー)
今回の破綻騒ぎは突如降って湧いたかのように見えるが、そこに至るまでの数カ月間、コーポレートガバナンス上の明らかな失策もあった。
同社の最高リスク責任者であるローラ・イズリエタ(Laura Izurieta)は、SVBを破綻に追いやるような危機を防ぐ責任を負っていたが、2022年4月に約400万ドル(約5億4000万円)相当にのぼる株式を売却した直後に辞任した。2023年1月に後任が決まるまで、最高リスク責任者のポジションは1年近く空席のままだった。
連邦準備制度理事会(FRB)がインフレに対抗するために積極的に利上げを行い、国債の利回りが2%を超えると、SVBのモーゲージ債の市場価値は急落した。これにより同行は数十億ドルの評価損を計上し、同行は法規上、破産が決定的となった。もちろんこれは評価損にすぎず、SVBがこの状況を打開することもできたはずだ。
VC資金が枯渇し、スタートアップがランウェイを延ばそうとしのぎを削るなか、多くのスタートアップが口座から資金を引き出し始めた。2022年3月には1980億ドル(約26億7000万円)あったSVBの預金残高は、2023年2月末には1650億ドル(約22億2700万円)にまで減少した。
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SNSが引き起こした取り付け騒ぎ
テック業界の業績悪化が続き、スタートアップは2023年下期に撤退を早めるだろうとの懸念から、SVBは3月8日に210億ドル(約2兆8300億円)の有価証券を売却し、さらにエクイティファイナンスで数十億ドルを調達する計画を発表した。
通常であれば、株価がわずかに下落する程度の発表である。前出のサスターも、「こんなのは危機でもなんでもない」と言う。
「SVBはすでにゼネラル・アトランティック(General Atlantic)から5億ドル(約675億円)を用立てており、最大22億5000万ドル(約3000億円)を調達するために公募を行っていたんです」(サスター)
しかし、すでに仮想通貨取引所FTXの破綻や仮想通貨に特化したシルバーゲート(Silvergate)銀行の閉鎖を目の当たりにしているファウンダーや経営者たちは、これだけでも十分に動揺した。
伝えられるところでは、SVBのグレッグ・ベッカー(Greg Becker)CEOは顧客に電話をかけ、「(SVBには)顧客を支援するに足る十分な流動性があります——みなさんが、SVBが危機に陥っていると噂を流しさえしなければ」と警告したという。だがこれはパニックを助長しただけだった。
「問題は、公募を発表したSVBには沈黙期間(quiet period)が課されていたためほとんど発言できなかったこと、多くのVCが突如すべてのポートフォリオ企業に金を引き出すよう助言するとは予想していなかったことです。
そして、私たちがSNSでつながっており、みんなが一斉に『まずい、この銀行は倒産するぞ』と耳にしてしまったのも問題でした」(サスター)
VCのレスティブ(Restive)でマネージングパートナーを務めるテイラー・グリフィン(Tyler Griffin)も、「今回の取り付け騒ぎはTwitterが引き起こしたようなものです。以前ならこんなことにはならなかった」と言う。
3月9日の午後にブルームバーグが報じたところによると、ピーター・ティール(Peter Thiel)率いるファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)のほか、コーチュー・マネジメント(Coatue Management)、ユニオン・スクエア・ベンチャーズ(Union Square Ventures)などテック業界でも注目度の高い一部のVCが、SVBから資産を移すようポートフォリオ企業に助言したという。
「われわれはポートフォリオ企業に対し、より安全な大手銀行を検討するよう伝えています」と話すのは、3月9日にSVBから資金を引き出したワンウェイ・ベンチャーズ(One Way Ventures)の投資家、ユージーン・マロブロツキー(Eugene Malobrodsky)だ。
「政府がJPモルガン(JPMorgan)やバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の破綻を看過することはまずありませんから」(マロブロツキー)
一部の大手銀行は、シリコンバレーを口説けるこの機会にすぐに飛びついた。シリコンバレーは何十年もの間、ウォール街の銀行を敬遠し、地元銀行を支持してきた。複数の情報筋によると、少なくともJPモルガンは3月9日にVCに電話をかけ、SVBから資金を引き出すよう促したという。
サスターは3月9日の夜遅く、SVBを救う方法をブレインストーミングする目的でテック系VCのトップ15人と緊急会議を行ったが、時すでに遅しだった。この時点でよく知られた人物数名がSVBから資金を引き出すようファウンダーたちに触れ回っていたのだ(サスターは具体名は明かさなかった)。
3月10日に公開された文書により、9日の営業終了時にSVBから420億ドル(約5兆6700億円)の引き出しがあったことが明らかになったが、これは同行の預金残高1610億ドル(約21兆7300億円)の約25%にあたる。
テクノロジー業界全体に波紋
3月10日にSVBからの引き出しが停止され、同行の資産は連邦政府の管理下に置かれることとなった。連邦政府は、SVBの資産を売却し、預金者に返済する計画だという。その間も、多くのスタートアップは請求書の支払いや運転資金の工面に苦労している。
フードボックスの宅配スタートアップであるFarmboxRxの創業者兼CEOであるアシュレー・タイナー(Ashley Tyrner)は、3月9日にはコスタリカで家族と休暇を過ごしていたが、そこへ会社の資金数百万ドルを預けているSVBにまつわる良からぬ噂が届き始めた。
SVBのバンカーや顧客サービス担当者からは差し迫った取り付け騒ぎについて聞かされてはいなかったものの、TechCrunchでパニックについての情報を読んだCOOから必死の様相のメッセージを受け取った。
「私たちも、メディアが報じ始めたタイミングで知ったのです」とInsiderの取材に応じたタイナーは語る。タイナーは会社の残高をSVBから送金しようとしたが、オンラインアカウントから締め出された。必死になってアカウント担当者に電話をしたものの応答はなかった。
FDICが経営難に陥ったSVBを管理下に置くと発表し、2008年のリーマンショック以来最大の銀行破綻が現実のものとなった3月10日朝の時点で、タイナーをはじめ数千人の預金者が同様に預金を引き出そうと試みていた。
タイナーの口座にある数百万ドルについて、SVBからはいまだ回答がなく、引き出すこともできないままだ。タイナーはショックを受けると同時に激しい怒りも感じている。
「SVBが間違った投資判断をしたせいで私まで資金を失う羽目になるなんて、バカげてますよ」(タイナー)
10日、名高いSVBの終焉について、VCたちは口々に遺憾の意を表明した。
VCのスピロス・マルガリス(Spiros Margaris)は「SVBは多くのVC、スタートアップ、投資家にとって素晴らしいパートナーでした。もっと支援の手を差し伸べられるべきだった」と述べ、こう続ける。
「『忠誠心のリトマス試験』は失敗に終わった。このことは今後しばらく、VCやスタートアップのコミュニティにさまざまな形で禍根を残すでしょう……ひとたび落ち着いたら、失ったものの大きさに気付くはずです」
サスターも同意する。
「今後、スタートアップが銀行と取引するのは難しくなるでしょう。われわれの業界は、自分で自分の首を締めてしまったということです」
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